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エッセイ196:心の筋肉を鍛えてくれるレジリエンス

 情報が溢れています。欲しい情報が、いとも簡単に、リアルタイムに入手できる時代になりました。手に入れる手法も手段も、多岐にわたっています。
 兎にも角にも情報量が多過ぎて、私は持て余しています。ですから、信じて良い情報かどうか疑わしいものは、素通りすることに決めました。素通りできそうにない場合には、その真偽を判断する物差しを探してから活用することにしております。時間を要しますが、そのやり方を私の行動規範としました。それにしても、健康をテーマにしたテレビ番組・ネット情報が多いですね。似たり寄ったりのテーマと内容を、毎日のように競って取りあげているように感じる時もあります。真剣に取り合っていては、かえって寿命が縮んでしまうような気さえします。
 一方、私の身の回りには、いつか使えるだろうとストックしておいた教材が、持て余すほどの分量となって手元に残っております。“問題意識が旺盛だから”と、言えなくもありません。可能な限り電子媒体にまとめ直しておりますが、切り抜きして溜め込んだ資料が積もり積もって、かなりの量に膨れ上がっていたのです。時代遅れのものもありますが、中にはこれからの時代に通用する教材や書籍もあります。そこで、自称キラリと光る教材を積極的に活用することを始めました。工夫して活かせるものが、いくつもあるのです。数年前から断捨離を始めましたが、“在るものこそを活かす”ことも、意識して進めるようにしております。そのことを教えてくれたのは、スーパーボランティア尾畠春夫さんの生き方でした。
 同じ時期、「心が折れる職場」(見波利幸著・日経プレミアシリーズ/2016年7月8日一刷)から教わったことがあります。レジリエンス(resilience)です。言い方は異なりますが、これまで何度となく問題提起してきたテーマなのです。レジリエンスを高めることは、かなり難しい課題ではありますが、医療従事者にとって気づいて欲しい育成ニーズでもあり、この機会に掘り下げて考えてみたいと思います。

心の筋肉を鍛えてくれるレジリエンス

 レジリエンス(resilience)の意味を調べることから始めました。英和辞典やインターネットで検索してみると、いくつかのことが明らかになってきました。
 元々は、物理学などの用語として使われていたそうです。最近では、心理学やメンタルヘルスケアの分野に出てくる言葉であることも分かりました。心理学では、いくつもの顔を持つ言葉とも言われているようです。防災の観点からは、リスク対応能力、危機管理能力として注目を集めていることから、今後さらにクローズアップされる能力だと思います。
 英和辞典には“復元力、弾力性”という訳が出てきます。心理学においては、“病気などからの回復力、強靭さ”、“困難な状況にもかかわらず、しなやかに適応して生き延びる力”、“しなやかな強さ”という意味で使われているようです。実は、今回レジリエンスという言葉を知って、11年前に問題提起したテーマ「心の筋肉を鍛える」を思い起こしております。“レジリエンスを高める”ことは、イコール“心(メンタル)の筋肉を鍛える”ことなのです。私にとって心の筋肉を鍛えるというテーマは、今でも必須の問題意識として横たわっています。
 私がレジリエンスを高める(=心の筋肉を鍛える)ことを意識し始めたのは、私自身のレジリエンスが低かったという問題でもありましたが、担当していた人事・教育の仕事を通してでした。30年近く前になりますが、社員のメンタルヘルスケアの必要性を感じ始めたのです。仕事そのものや対人関係のストレスを抱えてながら、メンタル面の不調に悩む人の存在が気になったことがありました。以来、レジリエンスを高める(=心の筋肉を鍛える)ことが人材育成テーマであること、しかし鍛えることがハードルの高い難しいテーマであること、そんなことを強く意識しながら仕事に取り組んでおりました。20年前からは、薬剤師や薬学生の採用を担当するようになって、レジリエンスに関する問題意識が、急速に高まっていったのです。
 レジリエンスを高めること、心の筋肉を鍛えることが、いかに難しいテーマであっても、問題意識を蔑ろにして先送りする訳には参りません。自問自答しながら、焦って無理な正答を追い求めるのではなく、目の前の問題に向き合うことを続けております。ですから、処方箋例としてご紹介できるものは何一つありませんが、今まで取り組んできた中身や考え方の一部を、この機会に呟いてみたいと思います。

 人生何が起きるか分かりません。百年後であればいざ知らず、人生全てコントロールできるなんて、人間の驕り以外の何物でもないと思います。ですから、想定外という言い訳的発想とサヨウナラをすることから出発しようと、東日本大震災からずっと言い続けております。想定外は他律要因であり、それが思考停止を誘発して終わってしまうような気がしてなりません。起きたことをキチンと受け容れて自律要因に目を向けなければ、本質が見えてこないのです。
ま た、“成功よりも失敗した経験の方が明らかに多い”ということも、問題や課題と向き合って対処する時の前提条件にしております。問題を特定する時は、四直四現主義で、客観的視点で意思決定しなければ、原因の本質が見えてきません。本質的原因が見えないと、根本解決には至らないのです。
 その上で、どのようにしてレジリエンスを高めるか、ということになります。
 先ず、突発的であろうと、想定内であろうと、何かが起きた時、何かに遭遇した時、或いは立ち止まって右往左往している時、どうしたらいいのか何も見い出せなかった時、自分自身が立ち返ることのできる“何か”を持っていることがポイントではないでしょうか。“何か”とは、原点・基盤、プラットフォームなど、言い方はいくつかあるでしょう。薬学生の就職活動であれば、“あなたはどのような薬剤師になりたいですか?”、“どのような人間を目指していますか?”、“今まで学んできたことを、社会でどのように活かしていきたいのですか?”、“あなたの人生観は、人間観は、仕事観は?”、という問いかけに対する回答が、その具体的な“何か”の一つだと考えています。それは、初志、人生観などの生き方になりましょうか! 
 先ほど触れましたが、“成功よりも失敗した経験の方が明らかに多い”ことから、“失敗から何を学ぶか?”ということも、レジリエンスを高める方法になると思います。失敗体験を、成功の母にするのです。例えば、過去の労苦や失敗の体験がどれだけあったのか、それらとどれほど向き合ってきたのか、その多寡が、打たれ強く生きるレジリエンスへとつながっていくのです。現実的には、投げ出したくなることや心が折れてしまいそうなことが、長い人生ではいくらでもあります。そのような状況の中で、逃げずに向き合うことがレジリエンスを高めてくれます。大切なことは、そのような場合の活力の原点は何かということです。私の見解は、明確な初志の存在と言い続けております。
 今回は、問題提起で終わりますが、レジリエンスを高める(心の筋肉を鍛える)ことは、今後の人材育成上の主要なテーマになるでしょう。一人ひとりが努力することは当然として、組織責任者のあり方、さらには仕事の進め方を含めた会社全体の働き方改革なしに、メンタルヘルスケア問題は解決しません。どのような処方箋を用意するのか、それは経営者と管理者の大命題なのです。
 最後に、ヒントとなりそうな私見で締めたいと思います。
 二刀流を貫いているMLBエンジェルスの大谷翔平さん、大ケガを克服して五輪2連覇を果たしたフィギュアスケートの羽生結弦さん、現役を引退した野球のイチローさんは、三者三様のセルフマネジメントの達人です。プロセスを知れば知るほど、レジリエンスの神様であり、その原点は明確な志だと思えてきます。さらに、その志実現を支える師匠やブレーンの存在です。このことは、天才だから可能なのではなくて、誰もが実践可能なあり方だと思います。そのためには、仕事の進め方の土台を「目標と自己統制によるマネジメント(Management by Objectives and Self‐control)」として、PDCAサイクルをスパイラルアップすることを継続することです。これらのことは、機会を改めて取りあげたいと思います。
                                                    (2019.8.17記)

【参考】エッセイ163回:失敗は“胆力強化の眠り森”(2018.5.1記)

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