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エッセイ174:質問と意見具申の当たり前の基本

 スポーツ競技終了後のインタビューのやり取りは、何らかの問題意識を働かせて観察すれば、問いかけ方の勉強になります。インタビュアーのあり方(文言、質問順、話す速度、言い回し、間の取り方など)によって、返ってくる回答に違いが出てくると感じることがあるからです。この気づきは、対話のノウハウを学ぶ実際的教材となることを教えてくれました。
 このインタビューというのは、インタビュアーの総合力が試される実戦場になります。いかに選手やスタッフの本心を的確に引き出すのか、行き着くところはその一点に尽きると思います。“一番聴いて欲しいことは何か”、“一番訴えたいことは何か”…、選手一人ひとり個性があり、そこに至るプロセスも一人ひとり異なるでしょうから、よく耳にする紋切型の文言と声色では、個性を引き出すことは難しいでしょう。核心を引き出すためには、どのような言葉を動員して、どのような表現と言い回しで応答の対話をスパイラルアップできるかにかかってきます。インタビューの目的達成のために、どれだけの準備をしたかで決まってしまいそうです。インタビューする選手のそれまでの人生のプロセス(出来事、心情など)をどれだけ調べ上げたか、節目節目で関わりをもった支援者からどのような秘話を聴き出したか、周辺情報や関連情報をどれだけ集められたのかなど、引き出しの量と質が分岐点になるでしょう。さらに、それまで培ってきたお互いのリレーションシップの密度も影響してくると想像できます。
 グルグル回りの応答の対話を志向する私にとって、インタビューにおける問いかけ方とボディランゲージも含めた問いかけ姿勢が、大いに参考となるのです。やはり、応答は問いに依存します問いかけ方で決まります。そんなことを考えながら、今回のエッセイでは、質問や意見をする時の基本原則について考えてみたいと思います。

質問と意見具申の当たり前の基本原則

 仕事経験を積み重ねて基本が身についたら、それまでと同じように、言われたことをそのまま指示通りにやって満足していては、進歩の道へは辿り着かないでしょう。その時々の置かれている立場や状況を見極めて、会社や組織の方針実現のために、積極的に自分自身の仕事の質を高めていかなければなりません。
 積極的に質を高めるための身近な方途の一つに、“質問する”、“意見や対案の具申”があります。上司や先輩を含めた周囲の皆さんも、メンバー一人ひとりが考えたことや感じたことを、積極的に発言してくれることを望んでいます。若いフレッシュな方々の新しいモノの見方や考え方は、マンネリを打破するための刺激として大歓迎されるのです。
 そのような場合、具申した意見や対案が円滑に受け入れられるために、留意しておきたい基本原則があります。これらの基本は、正にコミュニケーション能力をブラッシュアップするための土台(プラットフォーム)であり、有効な着眼点でもあります。

基本1:そこに思い至った理由をつけて質問する、意見する

 最近、思いのほか多いと感じることがあります。それは、質問と応答のミスマッチです。傍目八目的見解になりますが、“何故その質問をするのか?”という質問理由を添えれば、ミスマッチの多くを防ぐことができると思います。一方、明らかなミスマッチの場合、回答者も逆質問した方が良いのではないか、と感じることもあります。何故かといえば、質問には必ず理由があるからです。質問者が質問理由を簡潔に添えることで、核心に迫った応答の対話が実現すると思います。
 このことは意見をする場合も同様です。理由のない意見は、単なる思いつきでしかありません。思いつきでは、うまく事が運ばないでしょう。また、間違いや勘違いだって起こり得ます。人には感情がありますから、こじれてしまえば先へは進まなくなるでしょう。ですから、“何故そう考えたのか”という理由をまとめて、意見と一緒に示すということが大切です。6W3HのWHYに相当する思い至った理由は、最高の説得力となるのですから。

基本2:自己責任意識で発言する

 他人事という言い方をする時があります。裏を返せば、無責任ということになりましょうか。
 “自分の考えだけを言って後の判断は相手に任せる”といった態度、“○○さんの考えと同じです”と自分以外の意見を伝聞調で発言する、……。このような主体性を欠いた評論家的意見は、見透かされて歓迎されませんね。気がつけば影響力が急降下しているでしょう。
 やはり、正面から向き合って、自分自身の問題として自己責任意識で発言することが大切になります。向き合って責任を持つということは、“何故そう考えたのか(WHY)”、“何を(WHAT)、どのように対処(HOW)した方がいいと考えたのか”という自分の意志と対案を明確にして発言することです。

基本3:建設的で誠実に質問する、意見する

 批判的な質問や意見は、一人ひとりの気持ちを萎えさせるだけではなく、チーム全体の士気にも影響を及ぼします。一方、建設的な意見は、皆の気持ちを前向きにしてくれます誠実な対応は、チームメンバー同士の信頼感の醸成に寄与してくれること間違いないでしょう
 もちろん、周りから否定的な見解を言われたり、間違いを非難されることもあると思います。その一つひとつに過剰反応して意気消沈しないよう、気持ちをセルフコントロールすることも、ビジネスパーソンに共通する責任となります。

 それぞれが関連し合う三つの基本原則を紹介いたしました。
 コミュニケーションの本質を語る時、ラポール(rapport)という言葉が使われることがあります。心が通い合った相互の信頼関係、共感、好感といった意味ですが、ラポールに至る過程の中で、上記の三つの基本以外に、いくつかの着眼点があると思います。そのいくつかを、今年度新入社員導入研修のまとめの講義録から紹介して、エッセイ174回を締めたいと思います。

 私たちの仕事は、患者や生活者、会社の同僚、他職種の医療従事者との対話によって成り立つ仕事です。信頼と安心のコミュニケーションがあって、初めて専門的技能が活かされる仕事です。その信頼と安心のコミュニケーション実現のために、一体どうしたらいいのだろうか。
 基本の一つは、傾聴することです。患者さんが、同僚が、或いは他職種の皆さん、他職場の皆さんが、遠慮しないで自分の思いを率直に発することが出来る環境を作ることです。その魔法の杖が、傾聴なのです。何度も申しあげたことです。
 もう一つ考えて頂きたいことがあります。それは、他人と対話する時、意見、注意、アドバイスする時には、心に赤信号を点(とも)し、数秒立ち止まって、こう呟いてジャッジして欲しいのです。「この表現(言葉、言い方、態度)で良いのだろうか?」、「どんな言い方をしたら対話が弾むのだろうか?」、「理解し共感してもらうためには、どのような言葉を使えば良いのだろうか?」…と。そんな時間を持つことを躾化して欲しいと感じています。
 さらにもう一つ提案したいと思います。それは、「大切だと思うこと、絶対にここで言わなければいけないと思うことは、本気になって話して欲しい。その理由を、必ず添えて話して欲しい」ということです。それが、本当の優しさではないかというのが私の見解です。

                                                                  (2018.10.23記)

【参考】・エッセイ161回:信頼と安心のコミュニケーション実現のための前提条件(2018.4.15記)
     ・エッセイ166回:会議やグループ討議から得られる宝物(2018.6.10記)

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